EtherCAT サイクルタイム計算ツールの使用方法

お客様からよくいただく質問のひとつに、「EtherCATおよびEC-Master(acontisのマスターソフトウェア)で実現できる最速のサイクルタイムはどのくらいですか?」というものがあります。

EtherCATは産業用イーサネットプロトコルの中で最も高速な技術であるため、お客様が自分のアプリケーションでどこまで速く動作できるのかを知りたいと考えるのは自然なことです。しかし、この質問に対する明確な答えは存在しません。なぜならサイクルタイムは、アプリケーションの内容だけでなく、ネットワーク上のデバイス数や、各サイクルで送受信されるデータ量にも依存するためです。

BeckhoffおよびETGでは、これを「通信時間(communication time)」と呼んでおり、フレームの送信時間、ネットワーク伝搬遅延、フレーム受信時間のすべてを考慮します。さらに、EtherCAT GおよびG10の登場により、通信時間の算出には新たな変数も関係してきます。

私たちはこれまで、お客様がネットワーク構成ごとの通信時間を算出できるようサポートしてきました。この計算は、デバイスを追加、プロセスデータ量を変更した場合の影響を可視化するうえで非常に有用です。今回、こうした要素を手軽にシミュレーションできるよう、シンプルなEtherCATサイクルタイム計算ツールを公開しました。

以下では、この計算ツールの使用方法と、各パラメータの意味について詳しく説明します:

Bandwidth(帯域幅)

最初のパラメータはEtherCATの通信帯域です。
これまでEtherCATは常に100 Mbit/sで動作していましたが、現在ではEtherCAT G(1 Gbit/s)やG10(10 Gbit/s)も利用可能です。この帯域は、物理層で全データ(バイト)を送るのにかかる時間に直接影響します。

  • 100 Mbit/s ネットワーク:1バイトあたり約 80 ナノ秒
  • 1 Gbit/s ネットワーク:1バイトあたり約 8 ナノ秒
  • 10 Gbit/s ネットワーク:1バイトあたり約 0.8 ナノ秒(800 ピコ秒)

ただし、後述するように、EtherCATをEtherCAT GやG10に置き換えただけでパフォーマンスが10倍速くなるわけではありません。

Distributed Clocks(分散クロック)

チェックボックスで、分散クロック(DC)を使用するかどうかを指定できます。
DCを使用する場合、プロセスデータにいくつかの追加バイトが加わり、さらに追加のデータグラムが生成されるため、オーバーヘッドが増加します。

Master Software Processing Time(マスターソフトウェア処理時間)

このパラメータは、マスターソフトウェアがアプリケーション用のフレームを送受信する際に必要な処理時間を示します。ハードウェア構成により処理時間は異なりますが、acontisのような高品質なEtherCATマスターソフトウェア(EC-Master)では、この処理時間は通常数マイクロ秒程度に収まります。

Number of SubDevices(スレーブデバイス数)

このパラメータは、EtherCATネットワーク上のスレーブデバイス数に関するものです。
ツールでは2種類のスレーブ遅延を分けて扱います。理由は、各スレーブに一定の伝搬遅延が発生しますが、ベックホフのE-busのようにバックプレーンバス接続されたスライス型ノードでは、遅延が大幅に短いためです。

  • 標準Ethernet MII/PHYスレーブ:遅延 約 1 マイクロ秒
  • LVDS(Low Voltage Differential Signaling、例:E-bus)スレーブ:遅延 約 0.3マイクロ秒

Process Data Size(プロセスデータサイズ)

最も重要なパラメータのひとつが、サイクルごとに送受信されるプロセスデータ量です。
これは通信時間全体に大きく影響します。

EtherCATでは、Ethernetの最大フレームサイズ(約1500バイト)を超えるプロセスデータも扱うことが可能です。ただし、その場合は複数のサイクリックフレームが送信され、フレームごとに少量のオーバーヘッドが発生します。本ツールでは、この点も正確に考慮しています。

Communication Time (通信時間:結果)

最後に、すべてのパラメータをもとに通信時間が計算され、結果として表示されます。
この値を基に、ネットワークで実現可能な最短サイクルタイムを確認することができます。

なお、この結果には、アプリケーションが新しい入力データを処理し、出力を生成して送信するために必要な時間は含まれていません。そのため、サイクルタイムを設定する際には、このアプリケーション処理時間も考慮する必要があります。

この計算ツールが皆さまのEtherCATネットワーク設計に役立つことを願っています。
ツールはこちらのページからご利用いただけます:
EtherCAT Cycle Time Calculator

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