ヒューマノイド開発の準備工程: Nvidia Jetson AGX Orin 上で EC-Engineer Web による診断を実行
目次
はじめに
近年、ヒューマノイド(人型ロボット)の開発が世界中で急速に進んでいます。その中でも、Nvidia Jetson AGX Orin はこの分野の技術を加速させる重要なプラットフォームのひとつです。強力なAI処理能力とエッジコンピューティング性能を兼ね備えたこのデバイスは、ロボティクス開発を新たな次元へと引き上げています。
ヒューマノイドのようなモバイルアプリケーションでは、ワイヤレスでの運用・診断がますます重要になっています。EtherCATのメインデバイス上で EC-Master が動作している場合でも、EC-Engineer Web を使えばリモート接続で容易に診断を行うことができます。
本記事では、EC-Engineer Webの機能や利点、セットアップ手順を詳しく紹介します。
さらに、リアルタイムLinux上でモーション制御を実行し、モーション × リアルタイム × ロボティクス がどのようにヒューマノイド開発へつながるのかを実際に示します。
EC-Engineer Webとは
EC-Engineer Web は、EtherCATネットワークの構成・診断を行うための強力なソフトウェアツールです。Webベースで動作し、従来の EC-Engineer と同様の機能を提供します。EC-Engineer Webは ENI(EtherCAT Network Information)ファイルの作成・エクスポートが可能で、これによりEC-MasterがEtherCATネットワークを初期化・制御できます。さらに大きな利点として、ネットワーク診断機能が挙げられます。
ネットワーク状態の監視、変数の強制、メインデバイスおよび各サブデバイスの状態表示、エラーカウンタの確認など、多くの機能を備えています。たとえば、統合ツール「Mismatch Analyzer」では、構成ファイルと実際のネットワークとの不一致を解析でき、ネットワーク構築・調整を効率化します。
EC-Engineer Webは標準Webブラウザ(Chrome、Firefox、Edge、Safariなど)をユーザーインターフェースとして使用し、WindowsまたはLinuxがインストールされた任意のメインデバイスに接続できます。
今回のアプリケーション構成は、以下の図1のようになります。
メインデバイス側では、Nvidia Jetson AGX Orin上でLinuxとEC-Master が動作しています。
EC-Engineer Webのビジネスロジックは、従来のEC-Engineerと同じくコアロジックとENIエンジンをベースにしており、加えてASP.NET Core Webアプリケーションを採用して動的Webアプリケーションとして動作します。

(図1:EC-Engineer Webのシステムアーキテクチャ)
EC-Enginner Web のセットアップ方法
EC-Engineer Webは、Windows、Linux、MacOSそれぞれに対応したセットアップパッケージで簡単にインストールできます。Linux(tegra-ubuntu)モジュール上のシェルで適切なディレクトリに移動し、以下のコマンドを実行します(スニペット1)。
./EcEngineerWeb
(スニペット1:EcEngineerWebアプリケーションの起動)
これにより、アプリケーションがメインデバイス上で起動し、図2のように接続待機状態になります。EC-Engineer Webは、localhostのポート5000を通じて任意のブラウザから接続できるようになります。

(図2:接続準備が完了したEcEngineerWeb)
その後、メインデバイス上で EcMasterDemo を起動すると、EC-Engineer Webがシステムに接続可能になります。Webブラウザを使って、ネットワークの情報を簡単に可視化できます。
接続先IPアドレスを特定するには、EC-MasterがEtherCAT通信に使用しているネットワークインタフェースを確認します。Linuxコマンド ifconfig を使用すると、EtherCAT通信で使用されるイーサネットアダプタ(例:eth2)と、そのIPアドレスを確認できます(図3参照)。

(図3:ifconfigコマンドによるイーサネットアダプタ一覧)
接続後、図4のようにメインデバイスの状態、サブデバイス数・ステータス、メモリ使用量などをモニタリングできます。

(図4:EcEngineerWeb上のシステム情報画面)
さらに、CoEオブジェクトディクショナリにもアクセスできます。
図5に示すように、ハードウェア/ソフトウェアバージョン、ID、制限値、設定内容など、システムに関連するデータをすべて参照できます。

(図5:CoEオブジェクトディクショナリの参照画面)
リアルタイムLinux上でのEC-Motion Advancedの実行
次に、モーター制御を実際に動かしてみましょう。ここでは、EC-Motion Advanced を使用します。これはEC-Masterのモーション制御ライブラリで、ETG実装ガイドライン ETG.6010 に準拠した CiA402ドライブプロファイルをサポートしています。例として用いるアプリケーション EcMasterDemoMotionAdvanced は、Cyclic Synchronous Position(CSP)および Cyclic Synchronous Velocity(CSV)モードをサポートしています。
アプリケーションを実行する前に、Linuxシステムのリアルタイム設定を行います。
- RT PREEMPTカーネルの有効化
- acontisリアルタイムEthernetドライバのロード
- atemsysカーネルモジュールの組み込み
これらの手順については、弊社の別ブログで詳細に紹介しています。
リアルタイム設定の構成が完了したら、アプリケーション EcMasterDemoMotionAdvanced を起動します。ここで、接続しているドライブについて少し説明します。今回使用しているのは、Copley Controls社製 DCサーボドライブ AccelNet BE2 で、エンコーダ付きのブラシレスステッピングモーターを2台接続しています(下図6参照)。

図6:機械および電気的セットアップ
設定後、以下のコマンド(スニペット2)でアプリケーションを起動します。
./EcMasterDemoMotionAdvanced -intelgbe 1 1 -f eni.xml -b 1000
(スニペット2:EcMasterDemoMotionAdvancedの起動)
このアプリケーションでは、Intel Gigabit NIC用リアルタイムEthernetドライバを使用し、ENIファイル(-f eni.xml)でサブデバイス構成を読み込みます。テストではサイクルタイムを1 ms(-b 1000)に設定しています。
起動後、アプリケーションはサブデバイスをスキャンし、図7のようにOperationalモードへ移行します。

(図7:オペレーショナルモード)
モーターが回転を始めると、PDOイメージ上の各変数にアクセスでき、さまざまなパラメータを監視可能になります。図8に示すように、モーターの実速度をリアルタイムでモニタできます。

(図8:EC-Engineer Web上でのPDOアクセス)
まとめ
本記事では、Nvidia Jetson AGX Orin やその他Linuxコントローラにおいて、EC-Engineer Webを使ってリモート接続・診断する方法を紹介しました。
特にヒューマノイドやロボットのようなモバイルアプリケーションにおいて、EC-Engineer Webはワイヤレスで柔軟なEtherCAT機器の構成・監視ツールとして開発を大幅に効率化します。
EC-MasterおよびEC-Motion Advancedライブラリと組み合わせることで、リアルタイムLinux上での制御・診断・動作確認までをカバーする革新的な開発環境が実現します。
より多くの技術情報は弊社Webサイト(www.acontis.com)をご覧ください。
また、YouTubeチャンネル(www.youtube.com/@acontistechnologies)では、EtherCAT技術や製品紹介、最新ニュースなどの動画を公開しています。ぜひご覧ください。